外と内、居室間の繋がりを
風景として建築や住空間に表現
小野里信建築アトリエ
街のなかに生活風景を描く
建築家の自邸
まず、この邸宅は、〈小野里信建築アトリエ〉の代表、小野里信氏の自邸である。「建築家が自邸と向きあうことは、都市と建築のつながり・都市における建築の佇まい・建築の空間構成・高さや面積を含めたモノのサイズ・コンセプトを基盤に表現するディテール・素材や色の表現など、建築にアイデアのボキャブラリーをつくっておくようなものだと思います。
また、建築家自身が作法を再確認し、それをよりクリエイティブに発展する機会として捉えています。そして、その新たな作法が今後の創作活動に展開していくものと考えています」と、小野里氏は語る。
敷地は比較的密集度の高い住宅地。3面が道路に接し、600mmの高低差のある造成地だ。設計するうえでまず着眼したのは、敷地の高低差や視線のコントロールといった“レベル”の設定で、この高低差をインテリアで展開し、全体が繋がりながらも、そのステップによって個の部屋として用途の変化を認識するデザインとなっている。
もう一つ、ポイントとなるのは「街との繋がり方」をいくつかの視点で考えた住宅であるということだ。ひとつは、視線を空へとつなげる開口部や外の風景を切り取り、風や光を取り込むスリットといった開口部の工夫、もうひとつは素材の連続性と質によって、外部を内部のように感じとることができる工夫で、内部と外部を一体に囲んでいるコンクリートの壁が、内のような外、外のような内をさらに強く感じさせている。中庭を媒体とした開き方の工夫も秀逸で、囲まれた庭の床レベルを内部と連続させることで、植栽による街との連続性が生まれている。
その根底にあるのは、住宅は生活空間である一方、街を形成する役割も担い、閉じること・開くことを機能性デザイン性両面でスタディすること、そして室と室、内と外のシークエンスを生活風景として描くことが住宅には必要であるという考え方を大切にしている。さらには、家の中から屋外を感じることのみで完結するのではなく、この邸宅が建つことで、周囲に美しい景観が生まれるような︱街や環境を視点に入れた邸宅が増えれば、日本の街は、もっと美しくなるに違いない。
この邸宅は設計に着手する前から“家族の家”と名付けられていた。それは、「成長していく家族を包容する空間を探求することが住宅建築には必要だ」という想いから。「それが自邸であってもクライアントの住宅であっても“家族の家”として住宅建築にかかわることが大切」とも。
家族、友人、そして街。あなたの建てたい“家族の家”は、どんな風に繋がるのだろう。小野里氏と共に、まずそこから家づくりをスタートさせてみてはいかがだろう。
家族の家
宇都宮市
設計 | 小野里信建築アトリエ |
敷地面積 | 132.37㎡ |
1階 | 59.96㎡ |
2階 | 52.19㎡ |
家族構成 | 3人家族 (夫婦+子供) |
構造 | 鉄骨造 |
構造設計 | 正木構造研究所 |
設計期間 | 2012年2月〜2012年12月 |
工事期間 | 2013年1月〜2013年7月 |
施工 | 丸山工業 |
撮影 | 吉村昌也 |
小野里信建築アトリエ
住宅をはじめ、医療施設、幼稚園・保育園、オフィス・店舗、集合住宅等、栃木を拠点に幅広く活躍。外部と内部、居室間の繋がり(シークエンス)を風景として建築や住空間に表現し、それぞれ個の生活風景を建築や住宅で描く