コロナ禍において、「住まい」という側面では新しい価値観が生まれています。ライフスタイルを見直し、地方や都市郊外への移住を考えている方もいるのではないでしょうか?しかし、ひと言で移住と言っても、考えなければならないことはたくさんあります。どこに住むのか、今住んでいる家はどうするのか、これから住む家はどんな家を探すべきなのか。少しでも移住に興味がある方や新築をご検討の方にむけて、安藤さんにインタビューしました。
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瀬戸内海を生け捕りにする
「4m×4mの住宅」
よく建築家の「作品」といいますが、つくり手がいかに頑張ろうとも、それを開花させる機会がなければ、何も生まれせん。住宅でいえば、土地と資金を準備して家をつくろうと決意するクライアントの存在、何といっても始まりはここからです。
実際、人が驚くような、突き抜けた住宅が生まれるときは、大抵、その背後に突き抜けたクライアントがいるものです。私のつくった住宅でいえば、例えば神戸の海岸沿いにつくった建坪4m×4mの住宅(「4×4の住宅(2003年)」)。カーサ・ブルータスという雑誌の企画で知り合ったクライアントで、最初は海に接した最高の土地で、海の見える最高の家をという話でした。しかし詳しく聞くと、確かに防波堤を挟んで数十メートルの奥行きの土地はあるのだけれども、その大部分は海の中。建てられるのは、根元の僅かなスペースのみ。それでもあっけらかんと夢を語る彼の明るさに共感して、仕事を引き受けました。
工事は施工会社を営む彼自身で行い、出来上がったのが、4m×4mの室を垂直につなげたような四階建ての住宅。最上階が、家の中心となるリビングです。階段の上り下りも大変でしょうが、彼はこの家を終の棲家と決め、瀬戸内海と暮らす日々を楽しんでいます。日本の伝統的な庭の作庭手法で「借景」がありますが、この海を借景したいという住宅の依頼は結構あって、海外でもスリランカの海を見下ろす崖の上につくった「スリランカの住宅(2008)」や最近アメリカの著名な芸能人が購入して話題になった、マリブ海岸沿いの二つの住宅など、大規模なものをいくつか設計しています。が、「借景」という意味では、小スケールな分、「4m×4mの家」が最もインパクトがあったように思います。