現代の家づくりに求めるもの 04

コロナ禍において、「住まい」という側面では新しい価値観が生まれています。ライフスタイルを見直し、地方や都市郊外への移住を考えている方もいるのではないでしょうか?しかし、ひと言で移住と言っても、考えなければならないことはたくさんあります。どこに住むのか、今住んでいる家はどうするのか、これから住む家はどんな家を探すべきなのか。少しでも移住に興味がある方や新築をご検討の方にむけて、安藤さんにインタビューしました。

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「ここに棲みたい」という思いが原動力

住み手の人生、街の風景を豊かにする建築

 自然の風景だけではなく、人工的な都市風景を生け捕りにする「借景」もあります。実は私自身、ニューヨーク・マンハッタンの摩天楼が競い合うように建つ風景に、若い頃から強い思い入れがあって、「摩天楼を生け捕りにする!」をコンセプトに、旧い既存の高層ビルの最上部を改造してつくるペントハウス型の住宅を、架空のプロジェクトとして計画したことがあります。これを展覧会で発表すると、ニューヨークで現代美術の画廊を経営している知人が 「自分のためにこれをつくってほしい」と。
 彼は、マンハッタンに自分の住まいを持つことを積年の夢としていました。しばらくは会話にも上がらず、こちらも忘れかけた頃に「ようやく準備ができた。始めてくれ」と。彼が手に入れたのはアッパー・イースト・サイドに建つ1912年築の高層ビルの最上階とその屋上で、必要な機能はすべてその主階に、そこから螺旋階段でアクセスする屋上の計画に力を注ぎました。ペントハウス内外を貫く緑の壁は、フランスのアーティスト、パトリック・ブラン氏の協力を得て実現したものです。
 この仕事は法規的・技術的な課題が多く、現場のトラブルも重なって工期は大幅に延び、3年目くらいには、私も正直「これは最後までいかないのでは…」と、諦めかけましたが、クライアントの執念もあり、見事完成まで漕ぎつけました。
 最後に建築にいのちを吹き込むのは、やはり「ここに棲むのだ」というクライアントの意志の力です。エネルギーを注いでつくり上げた家には愛着も沸くものですから、完成後のメンテナンスにも自然と力が入るでしょう。人間と同じく、建築も手をかけていけば、美しく年を重ねることができます。そうした小さな努力の積み重ねこそが、住み手の人生を、ひいては彼の住む街の風景を豊かにします。これから住まいを持とうという人には、つくった後それを「育てる」プロセスも大切に考えてほしいと思います。

安藤 忠雄 氏

1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。
「都市ゲリラ」として建築設計活動をスタートして以来、常に既成概念を打ち破るような建築を追求してきた。1990年代以降は、その活躍の舞台を世界に広げる一方、環境再生や震災復興といった社会活動にも取り組む。
代表作に「光の教会」、「水の教会」、「六甲の集合住宅」、「フォートワース現代美術館」、 「地中美術館」、「21_21 DESIGN SIGHT」、「プンタ・デラ・ドガーナ」、「上海保利大劇院」、「こども本の森 中之島」、「ブルス・ドゥ・コメルス/ピノー・コレクション」など。
79年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、85年アルヴァ・アアルト賞、93年日本芸術院賞、95年プリツカー賞、02年アメリカ建築家協会(AIA)ゴールドメダル、05年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、10年文化勲章、13年フランス芸術文化勲章コマンドゥール、15年イタリアの星勲章グランデ・ウフィチャーレ章、21年フランスレジオン・ドヌール勲章コマンドゥールなど受賞多数。
イエール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。97年から東京大学教授、現在、名誉教授。

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