いのちある住まいを 家づくりの原動力は挑戦心 02

銀座の中心地に建つ別荘、ギャラリーの中に暮らすようなアートコレクターの家、 インド洋を望むスリランカの終の棲家といった、近年手掛けた建築にまつわるエピソードを交えながら、安藤忠雄氏が建築を手掛ける際の原動力、プロセスにおいて大切にしていること、想いをお話いただきました。「家は生き物」との安藤氏 の言葉が心に響きます。本誌をご覧の皆さまにも、ご自身の建てる家を愛しみ育てていただきたいと願います。

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生活シーンはアートとともに
ギャラリーに暮らす

 住宅の価値を論ずるのに、規模の大小、立地や経済条件はもちろん重要な要素ですが、その条件の良し悪しですべてが決まるというものではありません。一番大切なのは、そこでどのような生活を営みたいか、どのような人生を良しとするかという、住まい手の考え方、生き方です。私はそう考えます。人によって価値観はそれぞれ違うわけですから、どんな家を良しとするか、その評価基準もいろいろ。家づくりには、ただ一つ、絶対の回答などないというのが私の持論です。
 一旦、家づくりの常識とか、周りがどう思うかとか、そういう余分なものを忘れて、自分の住みたい家、つくりたい生活の風景を自由に想像してみてください。私がつくってきた内外打ち放しコンクリートの長屋だとか、屋根の上につくる茶室、銀座の別荘とかいったユニークな住まいの発想は、そういうところから出てきたものなんです。
 少し前ですが、銀座から少し離れた元麻布につくった「元麻布の住宅」も、かなり個性的な住まいです。クライアントは、筋金入りのアートコレクターで、彼のリクエストは「建築とアート、プロダクト・デザインが一体となった住まい」。要するに「住むギャラリー」を設計してくれ、というんですね。住宅兼ギャラリーというのはありますが、「住むギャラリー」とまで言う人はなかなかいませんから(笑)。こちらも「よし!」と意識を切り替えて、設計に取り組みました。
 敷地は表通りから奥に進むにつれて広がる、旗竿敷地と言われるような逆L字型の特異な形状で、斜線制限のクリアが設計条件の一つの肝でした。こうした状況を踏まえ、建築を外からではなく内側からの視点を主に、「どのような形をつくるか」ではなく、「どのようなシーンの連続を生み出すか」を意識しながら設計しました。このやり方なら、法規制により生まれるイレギュラーも、「多様さ」として活かしやすい。
 プランニングでは、間口の狭い分、奥行き方向への空間の「伸び」を大切にしました。一方でコア周りの吹抜けでは、垂直方向に重なる各層を緩やかにつなぎます。意図したのは、立体的な広がりの感じられる住まい。

 住宅の価値を論ずるのに、規模の大小、立地や経済条件はもちろん重要な要素ですが、その条件の良し悪しですべてが決まるというものではありません。一番大切なのは、そこでどのような生活を営みたいか、どのような人生を良しとするかという、住まい手の考え方、生き方です。私はそう考えます。人によって価値観はそれぞれ違うわけですから、どんな家を良しとするか、その評価基準もいろいろ。家づくりには、ただ一つ、絶対の回答などないというのが私の持論です。
 一旦、家づくりの常識とか、周りがどう思うかとか、そういう余分なものを忘れて、自分の住みたい家、つくりたい生活の風景を自由に想像してみてください。私がつくってきた内外打ち放しコンクリートの長屋だとか、屋根の上につくる茶室、銀座の別荘とかいったユニークな住まいの発想は、そういうところから出てきたものなんです。
 少し前ですが、銀座から少し離れた元麻布につくった「元麻布の住宅」も、かなり個性的な住まいです。クライアントは、筋金入りのアートコレクターで、彼のリクエストは「建築とアート、プロダクト・デザインが一体となった住まい」。要するに「住むギャラリー」を設計してくれ、というんですね。住宅兼ギャラリーというのはありますが、「住むギャラリー」とまで言う人はなかなかいませんから(笑)。こちらも「よし!」と意識を切り替えて、設計に取り組みました。

 敷地は表通りから奥に進むにつれて広がる、旗竿敷地と言われるような逆L字型の特異な形状で、斜線制限のクリアが設計条件の一つの肝でした。こうした状況を踏まえ、建築を外からではなく内側からの視点を主に、「どのような形をつくるか」ではなく、「どのようなシーンの連続を生み出すか」を意識しながら設計しました。このやり方なら、法規制により生まれるイレギュラーも、「多様さ」として活かしやすい。
 プランニングでは、間口の狭い分、奥行き方向への空間の「伸び」を大切にしました。一方でコア周りの吹抜けでは、垂直方向に重なる各層を緩やかにつなぎます。意図したのは、立体的な広がりの感じられる住まい。

 北側のアプローチから屋上のペントハウスまで、この住まいをコンクリートの壁に沿って歩いていくと、それぞれに異なる「光」を持つ、多様な住まいの風景が展開していきます。クライアントは、そこにジャン・プルーヴェ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンといった初期モダニズムの名作家具を中心に、彫刻、写真アートに至る豊富なアート・コレクションを自由自在に設置しています。訪ねると、すべての生活のシーンがアートと共にあり、まさにギャラリーの中に住んでいる感覚がしますね。食器や家具小物の類に至るまで、アートコレクターとしての彼の感性を体現することで成り立っている。彼というクライアントであったからこそ実現した住まいです。
 建築雑誌などで、建物を作品といって、それを設計した建築家の名前と一緒に紹介することがありますよね。確かに、建築も一つの表現ですから、そういう一面はあるのですが、そうはいっても、つくるのに大きなお金、エネルギーが要る建築は、あくまで社会的な経済行為です。建築家がいかに創意を燃やそうとも、それを開花させる機会がなければ、何も始まらない。その意味で、建築を生み出す力の根幹にあるのはやはり、新たな建築を構想して土地と資金を準備するクライアントなんです。
 実際、名建築として歴史に残っている住宅の背後には、大抵、その造形と同じくらい強烈なクライアントがいるんですよね。F・L. ライトに「落水荘」の設計を依頼したエドガー・カウフマンであるとか。あの住宅を実際に訪ねた時は、「よくこんな所に!」と感動というより驚きで昂りましたね。つくった建築家も凄いけど、つくらせたクライアントも本当に凄い。その空間からひしひしと伝わってくる「ここでつくるんだ!」という、人間の素朴な挑戦心が、心を打つんです。

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