キッチンを中心とした
回遊空間を
光と風が通り抜ける
開放的な住まい
都留理子建築設計スタジオ
立体的な回遊空間にちりばめられた
さまざまな場が、心を癒やし生活を彩る
通りに面した窓からは、軒を連ねる家々の風景を遠く見はるかすことができる。窓辺につくりつけられたベンチに座ると南からの日差しが心地よく、座面のラタンを介し下階の土間の気配が感じられる。
クライアント夫妻は、東南アジアをよく訪れ、数年間タイに住んでいた経験もある。設計スタート時には、アジアの開放的でリラックスした空間が好きだということ、料理をすること、食べること、飲むことが好きで、それらをゆっくり愉しむ時間を大切にしたいとの思いが伝えられた。そこで、都留理子建築設計スタジオは、町との連続性が感じられるキッチンを中心とした回遊性のある住空間を計画した。
平面形状は外周が変形の六角形、その中に整形の四角形を配置。四角形と六角形の間はくびれながらも緩やかに繋がる回遊空間が連続する。壁がつくる角度は直角ではなく102·5度〜158·5度と様々な開きの角度であり、緩やかに開いたコーナーが絶妙に光を連続させて柔らかな陰影を生み出す。
赤褐色の外壁はジョリパットの校倉仕上げ。一般的な校倉仕上げよりも短いストロークで塗り、光の当たり方で豊かな表情を見せる印象的な外壁とした。夜は外壁を照らすアッパーライトが町の景色をやわらかく彩る。
住まいの中心に設えたキッチンの天井高は4·25m。屋上テラスに開いた上部のハイサイドライトから入る光を白壁が受け止め拡散し、やわらかな光に満ちたキッチン空間を実現。アジアの住宅で見られる中庭のような半屋外空間が持つ開放性や親密さを実現するため、床はタイル張り、壁は珪藻土仕上げ、上部の窓には白い格子を施している。アイランドカウンターは敢えてアジャスター付きの脚で支えるデザインとし、タイルの床に置いた家具のような存在となるよう仕上げた。
直線部分と螺旋部分が混在する鉄骨階段は、床の抜けを介してハイサイドライトからの自然光を導くために蹴込み板は設けず、段板は6㎜の薄さにした。腰壁兼ささらのスチールプレートは一定ではない勾配を形状的にも力学的にもまかない、カーブした面は自然光を拡散するレフ板の役目も与えている。
立体的なワンルームの中に、ミニマムな土間空間、階段上部のスペースを生かしたヌック、1階2階を空気的に繋ぐラタンのベンチ、隠れ家のようなロフト、外と繋がる浴室などを散りばめた、シンプルな外観からは想像できない、遊び心も備えた居住空間を実現している。
京島H 東京都墨田区
設計 | 都留理子建築設計スタジオ 都留理子、 大嶋笙平(所員) |
敷地面積 | 78.88㎡ |
1階 | 39.26㎡ |
2階 | 51.98㎡ |
3階 | 38.46㎡ |
家族構成 | 4人家族 (父,母,子2人) |
構造 | 木造 |
構造設計 | KMC |
設計期間 | 2022年4月〜2022年12月 |
工事期間 | 2023年4月〜2023年10月 |
施工 | ヨシナガ工業 |
撮影 | 浅川敏 |
都留理子建築設計スタジオ
家は20年30年と長い時間を過ごすことになる場所。クライアントの具体的な要望はもちろん、言語化しづらいイメージや大切にしていることを丁寧にヒアリングした上で、様々な楽しみ方・時間の過ごし方ができるよう、敷地と容積全体を使って工夫する。また家は街を構成する一部分でもあるととらえ、素材のあり方や組み合わせ、建ち方を追求し、美しく端正な家を実現させることを使命としている