周囲の自然を
建物内に取り込んだ
海辺の高台に建つ家
㈱渡辺仁設計事務所
亡き父親が遺したマスターピースを元に
現在のエッセンスを取り込み
完成させた海辺の家
海を望む真鶴の高台に建つこの邸宅は、周囲の自然と溶け合うような穏やかな佇まい。波の音と潮の香と。ここにはまるで、特別な時間が流れているかのようだ。
渡辺仁氏が先代となる父親の元、この案件に最初に関わったのは2008年のこと。16年の時を経て竣工した邸宅は、今は亡き先代と渡辺氏、そして施主様の時空を超えた3者によるコラボレーションによるものだ。先代が遺した設計原案を基本とし、周囲の恵まれた景観を建物内に取り込むことが施主様たっての希望。父親と施主様の想いを汲み取りながら現在のエッセンスを取り込んで、空間の一つひとつを丁寧に造りあげていった渡辺氏の力量が光る。
上下2段構えの高低差を利用して、2階面にある道路からアプローチを通り、ブリッジを経由して2階のリビングに入る動線を。目の前には海を全面に取り込んだ開口部が広がって、遮るもののない空がどこまでも続く。天窓から光が降り注ぐ階段室を下ると浴室・寝室・和室があり、それぞれ斜め壁の幅広の廊下で繋がっている。どの部屋からも海を望み、視線の先に熱海の夜景を望む浴室が何とも贅沢だ。樹木を通して海が広がることで、どこか守られているような安心感もある。
また、上質な自然素材が適材適所に使われていることにも注目したい。外壁にはジョリパットを使い、南北方向の壁には木板を貼ることで風景に溶け込んだ仕様に。内装壁は左官職人の手仕事の跡が残る様な特注配合と色の漆喰仕上げ。周囲の壁と一体化するようなモールテックス仕上げのキッチンや、和室の天井にあしらった和紙によって簡潔な空間に温もりを。さらに、和室の上がり框や廻り縁はオーク材をカンナで削ったコウラ仕上げとし、木曽福島の工房にて製作したオーダーメイドのダイニングセットを配するなど、天然木の持つやさしい表情に心が静かに癒されていく。
お客様との対話を大切にし、素材と光を組み合わせた空間構成が渡辺氏の得意とするところ。周囲の花木が育ち、建物が味わいのある経年変化を帯びた頃、また訪ねてみたい邸宅である。
真鶴の住宅
真鶴町
設計 | ㈱渡辺仁設計事務所 |
敷地面積 | 736.76㎡ |
1階 | 80.90㎡ |
2階 | 86.97㎡ |
家族構成 | 4人家族 |
構造 | 木造 |
構造設計 | ㈱梅沢建築構造研究所 |
設計期間 | 2008年6月〜2009年3月 2022年1月〜2022年11月 |
工事期間 | 2022年11月〜2023年10月 |
施工 | 松浦建設株式会社 |
撮影 | 小川重雄 |
㈱渡辺仁設計事務所
渡辺仁/ Jin Watanabe
英国ロンドンのAAスクールのディプロマ課程を修め、ロンドン・パリの設計事務所で勤務。帰国後先代の「渡辺明設計事務所」を経て、2015年に「渡辺仁設計事務所」の代表取締役に