「安藤 忠雄 スペシャルインタビュー」 一覧
コロナ禍において、「住まい」という側面では新しい価値観が生まれています。ライフスタイルを見直し、地方や都市郊外への移住を考えている方もいるのではないでしょうか?しかし、ひと言で移住と言っても、考えなければならないことはたくさんあります。どこに住むのか、今住んでいる家はどうするのか、これから住む家はどんな家を探すべきなのか。少しでも移住に興味がある方や新築をご検討の方にむけて、安藤さんにインタビューしました。
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メキシコの現代アート作家の
スタジオ兼住宅「カサ・ワビ」
10年ほど前、メキシコ・オアハカ州の太平洋に面する港町で、メキシコ出身の現代アート作家ボスコ・ソディのためのスタジオ兼住宅を設計しました。最初に設計依頼の手紙をもらった時は、「メキシコはさすがに遠すぎる」とお断りするつもりでしたが、私の事務所まで来てプロジェクトへの意気込みを語る彼の熱意に打たれ、覚悟を決めました。
敷地は全長500mで東西に伸びる海岸線上にありました。目の前には延々と続く海と空、北側を振り返れば雄大な山脈ののもとに広がる一面のサボテン平原。文字通りの絶景です。眺めていると、その力強さがボスコのつくるアート作品、自然素材に独自の色を塗り重ねた作品のイメージと不思議に重なって感じられました。「ボスコの創造精神を体現するような、この場所でしか出来ない建築、住まいをつくる」そんな目標を定めて設計に取り組みました。
建築全体の背骨となるのは、海岸線と並行に走る全長300mの壁です。この壁を軸として、西側にゲスト・ヴィラを並べ、東側にスタジオとギャラリーを、真ん中にボスコの住居となるメイン・ヴィラを配置する。圧倒的スケールの荒々しい風景に負けないような、シンプルで力強い、コンクリートの造形を意識して考えました。その上で、それぞれの内部空間に、あの土地に相応しい大らかさ、ふくらみのようなものをどうやってもたせるか。そうして採用したのが「パラパ」と呼ばれる現地伝統のヤシ葺き屋根です。
熱帯気候の現地では、日中は海側から、夜間は山側から心地良い風が吹きます。通気性にすぐれた「パラパ」は、その風土を生かした非常に合理的な屋根方式です。ギャラリー以外のコンクリートの架構の上には、全てこの土着の屋根をかぶせました。そうして他にはない、独特の佇まいのアーティスト・イン・レジデンス「カサ・ワビ」が完成しました。
家づくりの答えは一つではない
その場所でしか出来ない建築・住まいをつくる
私が自身の事務所を構え、建築設計をはじめたのは、1960年代末、28歳のときです。独学で何の後ろ盾もなかったため、最初の十年間くらいは、なかなか仕事がとれない。かろうじて見つかる小さな都市住宅の設計に全力投球という日々が続きました。そのまま10年、20年と踏ん張っていく内に少しずつ仕事の規模は大きく、プログラムも多様化して、今のように美術館など手掛けるようになったわけですが||どれだけ忙しくなっても、年に1、2件は住宅設計の仕事を受けるようにしています。それは、人間の生活に最も深くかかわるという意味で、住宅こそが建築の原点であり、「その原点を忘れてたくない」という思いをずっと強くもっているからです。
数えるともう100以上の住宅を設計しています。こういうと「その中で一番うまくできたと思うのはどの家か」「どうしたらよい家がつくれるか」と聞かれるのですが、これがなかなか答えるのが難しい。そもそも建築設計というのは、基本的につくる場所もプログラムも、プロジェクトごとに全て異なる条件で考えるものです。
さらに住宅の場合は住まい手となるクライアントのキャラクターがそこに関わってくる。求められるものが違うのだから、答も一つではない。だからこそ、住宅設計は難しく、おもしろいのです。
振り返れば、住宅一つ一つに、それぞれに固有で特別な「物語」が浮かびます。別に「カサ・ワビ」のように、立地や規模、プログラムが個性的だから「特別」ということではありません。大切なのは、「こんな家をつくりたい」「この場所でこんな生活をしたい」という、住まい手と作り手双方の思いの強さです。ありふれた街中の、狭小敷地であっても、夢のある「物語」は十分紡げるのです。
私が自身の事務所を構え、建築設計をはじめたのは、1960年代末、28歳のときです。独学で何の後ろ盾もなかったため、最初の十年間くらいは、なかなか仕事がとれない。かろうじて見つかる小さな都市住宅の設計に全力投球という日々が続きました。そのまま10年、20年と踏ん張っていく内に少しずつ仕事の規模は大きく、プログラムも多様化して、今のように美術館など手掛けるようになったわけですが||どれだけ忙しくなっても、年に1、2件は住宅設計の仕事を受けるようにしています。それは、人間の生活に最も深くかかわるという意味で、住宅こそが建築の原点であり、「その原点を忘れてたくない」という思いをずっと強くもっているからです。
数えるともう100以上の住宅を設計しています。こういうと「その中で一番うまくできたと思うのはどの家か」「どうしたらよい家がつくれるか」と聞かれるのですが、これがなかなか答えるのが難しい。そもそも建築設計というのは、基本的につくる場所もプログラムも、プロジェクトごとに全て異なる条件で考えるものです。さらに住宅の場合は住まい手となるクライアントのキャラクターがそこに関わってくる。求められるものが違うのだから、答も一つではない。だからこそ、住宅設計は難しく、おもしろいのです。
振り返れば、住宅一つ一つに、それぞれに固有で特別な「物語」が浮かびます。別に「カサ・ワビ」のように、立地や規模、プログラムが個性的だから「特別」ということではありません。大切なのは、「こんな家をつくりたい」「この場所でこんな生活をしたい」という、住まい手と作り手双方の思いの強さです。ありふれた街中の、狭小敷地であっても、夢のある「物語」は十分紡げるのです。