ランドスケープまでを含めた
おおらかな場を建築
長谷部久人建築設計事務所


潮の香りや潮騒も受け止める
波打ち際の住まい
最初の写真、左手の明りの灯る建物が、今回ご紹介している「海までの家」。瀬戸内海が目の前に広がる、まさに波打ち際の家だ。
堤防があるため、1階からは海は見えない。そこで、この眺望を活かすために、2階にLDKおよび寝室を集約し、日々の暮らしの中で、どこからでも海と空を楽しむことができる配置だ。1階と2階をつなぐ階段室からは、あえて海を見せないように。珪藻土の壁をやわらかく照らす灯りに誘われて2階へ上がると、2階海側は圧巻の全面開口。このメリハリによって、目の前に広がる空と海がより一層ドラマチックに。窓を開け放つと潮風と波音が部屋へと流れ込む。
家族が集うLDKは、扉で仕切らずスキップフロアとすることで、緩やかに繋げながらゾーニング。海側の窓辺には高さ80センチのカウンターを設けているが、床がスキップフロアになっているためおのずからその高さが変化し、キッチンからベンチ、床にまでシームレスに用途を変える。緩やかに曲がった壁と床が空間に揺らぎを与え、部屋がまるで海に浮かんでいるかのようだ。
建築は、何十年・何百年という時間を人々と共に在り続ける場所。大切なことは、光や風が感じられる気持ち良さや佇みたくなるような居心地の良さ、昔から在ったような懐かしくも新しい存在感だと考えています―これは、設計を手掛けた〈長谷部久人建築設計事務所〉の代表・長谷部久人氏の言葉。だからこそ、建物からランドスケープまでを含めた、“おおらかな場”を建築することを大切に。また、時代が進むと、建物の使い方も当然移り変わっていくものだ。長谷部氏は、その変化をゆったりと受け容れながら、時間をかけて使い手と寄り添っていくような建築の在り方を研究し、具現化していく。
日々の何気ない出来事を愛しみ、その幸福を次世代へと紡いでいく事を大切にする方にこそ、訪れていただきたい設計事務所である。
海までの家
松山市堀江
設計 | 長谷部久人建築設計事務所 |
敷地面積 | 420.23㎡ |
1階 | 84.48 ㎡ |
2階 | 80.84 ㎡ |
家族構成 | 夫婦 |
構造 | 木造(CLT) |
構造設計 | 黒岩構造設計事ム所 |
設計期間 | 2021年9月〜2022年9月 |
工事期間 | 2022年10月〜2023年5月 |
施工 | 株式会社 川下建設 |
長谷部久人建築設計事務所
建築の企画・設計・監理、家具・インテリア・プロダクト・展示に関するデザイン、建築に関する土地の調査分析・企画・設計までを範疇に、戸建て住宅はもちろん、ホテルや商業施設、医療施設、ギャラリー等も数多く手掛けている